剣道は修行次第で老人でも若者に負けない?(1)

中山博道

老齢になっても本当に若者に勝てるの?という疑問への考察

剣道は、年を取って老人になっても若者に負けず、技術を上達させることは可能というのは本当だろうか?

老齢の達人は本当に実在するのか、したのか?と考えた人は多いでしょう。

かくいう私もそんな人が本当に存在するのか、したのか?と若い頃疑問に思ったものです。

だって常識的に考えて、年を取ったら自然と筋力は衰え、関節は固くなり、どんなに鍛錬しようが何よりスタミナがなくなっていきます。

どんなにがんばったって無理やろ・・と思うのが普通です。

速筋は老人になっても鍛えられる

しかし10年以上前に、私は新聞に掲載されたある著名な科学研究機関の研究結果で、速筋(瞬発的に大きな力を生み出す筋肉)と遅筋(持久力を維持する、つまり長い時間運動を続ける時に必要な筋肉)では、速筋の方は老人になっても筋トレ次第で若者並に鍛えることが可能と知ったのですが、それは40代の今になっても自分で実感できます。

速筋、遅筋について詳しくしりたい方は以下のサイトをご覧ください。

<参考サイト>

実際に70代なのに毎日のウエイトトレーニングによって筋肉ムキムキの人なんかをテレビで見たことある人もいるでしょう。

つまり持久力では若者に勝てなくても、剣道の試合は瞬発力が勝負の競技であり、サッカーや野球なんかと違ってわずか試合時間は3~4分程度です。

この情報だけでも老人でも十分若者に勝てる要素は十分ある思っていただけるのではないかと思います。

最後の武芸者、中山博道

では、実在した人物の中で、今回まずは「昭和の剣聖」の一人であり、「最後の武芸者」と呼ばれた有名な中山博道先生の弁を紹介しましょう。

中山博道

この方は、3尺(151センチメートル)という小柄な体格ながら、堂々たる剣風を大正・昭和に渡る剣聖として不朽の名声が伝えられている方で、なんと剣道、居合道、杖道の三道において範士号を持ち、大名人と言われています。

※wikipediaには160センチとありますがいずれにせよ小柄

若い頃は強くなるために血を吐くような稽古を続けられ、日々の剣道のための稽古量を確保するため睡眠時間まで削って1日4時間しか眠らなかったそうですよ。(何とも昔の方は無茶をしなはる・・・、汗;)

 

「中山博道口述集」からの引用

中山博道口述集

以下は「中山博道口述集」(上記画像が表紙)からの引用です。

正しく修行すれば八十歳でも敗れない

 

あの人は地稽古には本当に強いが、試合になるとまことにアッけなく負ける、という言葉をよく聞く。これはその人自体に多分な欠点があって、本人の真剣味が地稽古に乏しいからと言って良い。

地稽古に強い者は試合にも強い、とするのが地稽古本来の効果で、地稽古に強くて試合に弱いのは、稽古の十二訓である気、息、間、節、断、正、感、敏、知、技、力、心、の不備不知から来ていると考える。

 

即ち、地稽古に臨んで充実さが不足し、道具を着けていたずらに、打った打たれた、押した押された、倒した倒された、の運動だけをしているのが原因であろう。

 

打った刹那の満足にばかり走って、打たれた原因をあまり反省しないような稽古を続けていると、試合の場面になって、打刺に対する瞬間の判断を誤ってしまう。地稽古で充実した十二訓を実行していれば、試合に十分勝つことができる。

 

これは私の体験から推しての理由で、結局私だけの意見に過ぎないが、決して誤ってはいない。勝負は時の運という点を種々な方面から研究してみたいが、これも甚しく難しいことである。

 

年を取れば体力も劣ってくるし、敏活な動作も鈍るのは当たり前であるが、剣道には竹刀という特別な介在物があることを忘れてはいけない。この竹刀にかけられた積年の労が効果を発揮し、若い力や、若い術に十分対応し、年齢より来る衰えを防護してくれるのである。

 

これは絶対その通りとはいえないが、大体順当に正しく修行した者は、年齢から来る衰えと八十歳までは完全に対抗できるものである、と体験で確信している。

 

中山は老人だから手加減して、といわれたことは絶対なかった。八十歳をもって限界点とするならば、人間の年齢から看て生涯不変と申して良い。即ち、九分九里まで若い者に敗れることはない。これは断定してもいい。ここに剣道の特色があるのだと公言できる。

 

この問題は、種々意見や反論があることに相違ないが、竹刀に於ける無形の悟りというものは、専門家非専門家を問わず、それぞれの修業に比例して掴んでいられることであろう。

 

私はそのことを基礎として、剣道に年はない、と言ったのである。高齢者の剣道がその手本を示している例は、勿論全部が全部というわけにはいかないが、他の世界に見ることを得ぬほど多い。

 

結局、勝負とか稽古とか、体力との対抗に於いて年がないとする最大の原因は、修行の正しさが竹刀に与えた悟りがあるためで、剣道に年はないのだと言っていいと考えている。
 

「中山博道口述集」 P152~153

 

いかがでしょうか?

このように公言してはばからない達人と言われる方が昭和初期の頃(昭和33年86歳で没)まで現実にいたのです。

明日は幕末の剣士で白井 亨という達人を紹介したいと思います。

乞うご期待!

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中山博道